爛々
11月

少し冬がちらつき始め、冷たい風とひんやりとした気温が肌に突き刺さる11月のこの日、私はバイト先の飲み会の二次会へと向かっていた。

一次会は用があって出られなかった。

「これから二次会あるんですけど来ますか??」と連絡がくれたのは、

私がこれから好きになることになる先輩Kだった。

バイトを初めて3ヶ月。
kとはバイトの時間も少ししか被らず人見知りが特別ひどい私はkとあまり話したことがなかった。

とはいえ、バイト初日で最初の仕事を教えてくれたのもkだった。

kの最初の印象は、ハキハキしていて明るい人。
太ってなくて、でも肩周りはがっしりしていて、身長はそんなに高くはないけれど後ろ姿はとても大きく見えた。

そんなkはみんなによくイジられているような親しみやすい人で、それでもここでの仕事は長くみんなから信頼される存在だった。

そんなkからの連絡。
人見知りが災いし、バイト中も大人しい私がお酒を飲めばみんなと少し打ち解けられるチャンスだと、すぐに「行きます!」と返信をした。

もともと自分が酒癖が悪いことは自覚していた。

二次会へ参加し、案の定私はガブガブと酒をとばし、見事に酔っ払っていた。

酔っぱらいながら目に入ったのがkの姿。
思わずkに話しかける。

「kさん、この歌歌ってください」

別の先輩から好きな歌手を聞かれたとき答えた歌手が
「これkくんもよく歌うよ」と聞いていた私はそれを思い出してkに提案したのだった。

kもこの時すでにお酒に酔った様子で、
「お前も歌えよ」
とか言いながらマイクを私に差し出した。

初めて聞いたkの歌声はとても心地が良かった。

このやりとりがきっかけで隣にきたkはどんどん私に話しかけた。

私が仕事中大人しすぎるだとか、酒を飲んだら普段のキャラと違いすぎだとか、

酔っていた私はkからの質問にどれもちんぷんかんぷんに答えた。

そんなやりとりが続く中、いきなり展開はやってくる。

「なんか寒い」
そういってkの手を私は握った。

「お前手冷たいなぁ」
kがそう言って手を離そうとしたとき

「寒いからそのまま」
と私はさっきよりも強くkの手を握った。

「俺……彼女いるよ??」
酔っていた私を落ち着かせようと思ったのか、手を離してほしかったのか、kは迷いもせずに言った。

「へぇー、いいなぁ、私も彼氏がほしいなぁ」
kの手を握ったまま言った。

「どんな人が好きなの??」
kも手を握ったまま言った。

「どんな人でもいいですよ〜、べつにタイプとかそんな思いつかないし。」

kはその瞬間私の手をぱっと話してこう言った。

「俺、この先何があってもお前のことだけは絶対好きにならん!」

kは確信を得たように、わたしの目をまっすぐ見つめていた。

「誰でもいいなんてなぁ、一番最悪。絶対彼女にしたくない」

ほぇー、この人、男の人なんだなぁ。
酔っていた私は何故だかこのときkが男だということを初めて実感をしていた。

「寒いんだから離さないでよ」
お前の主張はどうだっていいといわんばかりに私はまたkの手を強く握った。

「私も彼女いる人わざわざ好きになるような暇人じゃないです」

寒いから手を握っただけ。
この人を一度たりとも男として見てたわけじゃない。

だから彼女がいるからって手を離す理由はそこにはない。

あくまで手ぐせの悪い??酔っぱらいの言い分だった。

手を握ったまま私とkはお酒を飲んでいた。

誰が見ても二人は酔っていた。

手を握って、黙って目を合わせていた。

周りの騒ぐ声や音がまるで水の中で聞いているようだった。

ぼんやりとしたこの空間で私はそっとkの唇に私の唇を合わせた。

今度はkの唇が私の唇をくわえた。

一度合わせた唇は中々離れようとはしなかった。
誰が見ていようとも、その時はどうでも良かった。

目を細めたkがその時は誰よりもかっこよくみえて、私をドキドキさせた。

私は久しぶりのキスに心地よさを覚え、無我夢中でkとキスをした。

お互いの唾液を移し合いながら、いつまでもキスをした。

そこからの記憶はもう、なかった。





朝、いつものベッド。いつもの光景かと思われた寝室。
隣にいたのは、昨日まで気にもとめたことがないkだった。

微かに残る昨日のキス。
目が覚め、酔いも覚めた私とkは、抱きしめ合いまた何度も何度もキスを繰り返した。


冬が近づく11月。
このキスがこれからkと私に纏わりつくことになるなんて、kも私も、誰も予想なんてしなかった。

真っ白になった頭と熱い唇は私とkを別の世界へ連れ込んでいた。
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