彼女が虹を見たがる理由
出会い
水が跳ねるような音が聞こえてきて、俺はグラウンドへと足を向けた。

太陽は沈みかけていて見慣れた街をオレンジ色に変えている。

部活動をしている連中の姿はなく、俺も早く帰ろうという、矢先の事だった。

グラウンドへ出た時、そこに1人の少女の姿が見えて俺は「あっ」と小さく口を開いた。

小柄で長い黒髪を1つにくくっているその少女の名前は村田桃葉(ムラタ モモハ)。

同じ2年B組に在籍しながら会話した記憶はなく、小柄な彼女は不思議ちゃんとして有名な生徒だった。

なぜ彼女が不思議ちゃんなのか、それは目の前の光景を見ればわかった。

村田さんは太いホースを持ち、校庭に水撒きでもするかのように大量の水を噴射させているのだ。

俺は思わずその光景をぼんやりと眺めてしまった。

村田さんはいつ、どのタイミングで、どうしてだかわからないが、水をまきたがる。

例えば昼時の教室で。

例えば登校時間の廊下で。

自分で持参したらしいゾウさんジョウロを使って、周囲の迷惑を意に介せず水まきをしている姿を、俺は幾度となく見かけていた。
< 1 / 46 >

この作品をシェア

pagetop