約束果たします代行人



「そんな状況のときに、初恋の女の子に会うためにルンルンでこっち帰ってこようとしてたからさ。説教して、阻止した。相手の子には悪いと思ったけど、俺は見ず知らずの女の子より、悠の彼女のほうが大事だから。約束破って行かないってのはばつが悪いって悠が言い張るから、代わりに行って、事情説明してやるって言ったんだよ」

 そうしたら市原さんは、ありのまま話されると格好悪いから嫌だと言ったらしい。
 どうせ会わないなら、いいように言っておいてほしいと。
 だから、相良さんはああ言ったのか。

“ゆうくんは元気で、幸せそうだったって。大学出て、サラリーマンしてて、社会人バスケやってて、高校時代から付き合ってる彼女と、来年結婚するって言ってたって。利乃ちゃんもお幸せにねって、そう伝えてくれる?”

 一つ、納得がいかない。

「それって……市原さんからの伝言として、相良さんが伝えてくれたら良かったんじゃないんですか? どうして市原さんに成りすましたんですか」

 疑問に思ったまま尋ねると、歩き出してから初めて、相良さんが私のほうを見た。けれど、またすぐに視線を戻す。

「何でだろうね。そのほうが、後腐れがないって思ったからかな」

「後腐れ?」

「結局本人に会えなかった場合、またいつか会いたいって思って、心残りになりそうだから。会って、満面の笑みで幸せに暮らしてるって言われたら、もうそれで終わりでしょ? だから」

 だから、出来の悪い幼馴染みに成りすまして、初恋の想い出を回収しに行ったということ?
 相良さんの言う理屈がすぐには理解できなくて、何度か頭の中で反芻して、やっと分かった。

 そうまでして、『ゆうくん』と、初恋の女の子との縁を終わらせたかったということだ。
 悠くんが付き合っている身重の恋人のために?

「好きなんですね、市原さんの彼女のこと」




< 13 / 33 >

この作品をシェア

pagetop