温もりを抱きしめて【完】

掴めなかったもの

1週間のニューヨーク滞在が終わった。

要さんはまだ暫くお父様の会社で勉強があるらしいので、私1人が先に日本へと帰国することになった。

西園寺邸には正式に婚約したことが伝えられ、私が帰ると間島さんや三上さんを始めとする屋敷のスタッフに盛大にお祝いされた。

当初予定していた夏休みの予定は大幅に変更され、8月中旬に行われる婚約披露パーティに向けての準備が予定に組み込まれた。

園芸部の活動日は出来るだけ変更しないようお願いしたけど、それでもパーティ前後1日は休まないといけなくなった。



その事も兼ねて夏希ちゃんに連絡をしようと思ってるんだけど、携帯を持った私はさっきからボタンを押せないまま時間を過ごしていた。

婚約のことを、夏希ちゃんにどう伝えようか悩んでいた。

だって、夏希ちゃんは要さんの彼女とも仲がいい。

2人が別れた原因が、婚約のことだと聞いたら...。



「……ヤな女だよね、私」



自分でも、そう思う。

それが政略結婚の為とはいえ、良い気持ちにはならないだろう。



「でも、もう後戻り出来ない…」


どんな事があっても、私は決めたんだ。

たとえそこに痛みを伴ったって、後には引けないんだから。




ようやく自分を奮い立たせて、送ったメールはすぐに返信が来た。

「明日の部活の後ならいいよ」というその文面を見ると、私は「じゃあまた明日」と返事を打ち、携帯をテーブルに置いた。
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