温もりを抱きしめて【完】

嫌悪の対象

「何ですか、それ!そんな話聞いてません」



海外から久々に帰ってきた親父との食事。

その時親父の口から出た言葉に、俺は自分の耳を疑った。



「だから、今言ったろ?お前の婚約者が今度の日曜からココに住むって」



ケロリとした表情でそう言ってのける親父。

俺はダンッとテーブルを叩いて立ち上がると、飄々とステーキを口に運ぶ親父を睨みつけた。



「俺は、結婚相手は自分で決めると言ったはずですけど」



怒りの所為か、いつもより少し低くなった声でそう言うと、テーブルにフォークとナイフを置いた親父は溜息をついて俺を見た。



「あのなぁ、要。お前は西園寺家の跡取りなんだぞ?その辺のこと分かって言ってるのか」



今まで何度も言われてきた言葉だ。

それくらい分かってる。

分かっていても、今の俺には到底考えられない話だった。



「自由に恋愛したい気持ちも分かる。だから、今までは自由にさせてきただろ?けど、結婚は別だ。これはお前だけの問題じゃないんだ」



西園寺家の長男に生まれた親父も、政略結婚で母親と出会った。

両親が決めた相手だったが、2人は出会ってから恋愛をし、結婚したので俺の記憶に残る2人は仲睦まじい夫婦だった。

その母親も、俺が幼い時に病気で亡くなり、この世を去った。

家の為に結婚を決められた親父とお袋。

でもそこに、ちゃんと愛はあった。

政略結婚とはいえ、そういう形があるのも知っている。




「それでも俺の人生だ。結婚相手は自分で決めます」




ハッキリと親父にそう告げると、俺はくるりと身を翻し、親父に背を向けた。

冗談じゃない、そんな気持ちで掌をギュッと握りしめ、広間のドアを力強く閉めた。
< 44 / 171 >

この作品をシェア

pagetop