温もりを抱きしめて【完】
それから帝桜祭の準備は順調に進み、今日から2日間は授業もストップ。

全校生徒が朝から放課後まで最後の追い込みで作業に取り掛かることになっていて、俺も早朝に家を出て、校門前の装飾について打ち合わせすることになっていた。



「要様」

朝食を摂り終え、いつもより早く玄関に向かうと、珍しく間島が俺を呼び止めた。


「何だ?」


制服の上着に袖を通した俺は、ボタンを留めながら間島を見る。



「何度も申しておりますが、今日の夕食は伽耶様とご一緒に召し上がってください」



もう何度目か分からない間島の言葉に、俺は溜息をつきたくなった。

あの女が屋敷に来てから、間島は度々俺にそう言って一緒に食事をさせたがった。

だが、俺としては水織のことがある手前、屋敷内であの女との接触は出来る限り避けたいと思っていた。



「食事を一緒にする気はないって何度も伝えたはずだ。今日も1人でいい」



俺はそう言うと、かばんを手に取って出ていこうとした。

いつもなら、これで話は終わる。

でも、今日の間島はここで引き下がらなかった。



「要様、お待ちください」


引き止められた俺は、振り返ってもう一度間島を見た。


「伽耶様もご両親の命で誰も知り合いのいないこの屋敷に越してこられたのです。きっと心細く、不安なこともあるでしょうが、私どもにはそんなお顔一切お見せになりません」


間島はそう言うと、小さく溜息をついた。


「婚約を受け入れられない事情は分かりますが、このままでは何の解決にもなりませんよ」


間島の言葉に、俺は何も返さなかった。


「今日は伽耶様の誕生日です。どうか、今日だけでも」


そう言う間島に背を向けて、かばんを持ち直した。


「行ってくる」


とだけ返すと、俺は屋敷を出て行った。
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