バレンタイン狂詩曲(ラプソディー) 〜キスより甘くささやいて 番外編〜
その2 美咲とチョコレート
翌日の帰り道。美咲と一緒に近所の本屋に寄った。
バレンタイン直前なので本屋の目に付く場所にチョコレート作りの本がたくさん置かれている。
美咲は生真面目に本のページめくり、作り方をチェックしている様だ。
俺はそっと離れた場所で車の雑誌などをめくり、美咲の表情を盗み見る。
真面目な横顔、通った鼻筋、長い睫毛に縁取られた瞳、ピンクの唇、長くて細っそりした指でページをめくる。
薄化粧で、髪も無造作な感じだけど、その表情は印象的。
やっぱり、美咲は綺麗だ。と改めて思う。
本屋に入って来た男達が、スタイルのいい美咲を上から下までチェックするのがわかる。まあ、背も165センチあって、スレンダータイプではあるけど、今日みたいに体に沿ったシャツを着ていると、胸に隆起がはっきりわかる。きっと、BカップとCカップの間ぐらいかな?美咲が思っているほどないわけじゃあない。通りかかるオトコが視線を注ぐのはわかる気がするけど、俺の気持ちは穏やかじゃない。
俺は我慢出来ずに、大股で美咲に近づき、後ろから、肩に腕を回す。美咲が振り向いて、大きく微笑む。俺がイチバン好きなのは、この笑顔だ。と俺の頬も緩む。美咲がこんな風に笑顔を見せるのは俺にだけだって、そう思いたい。
「颯太、簡単で美味しいのって、どれだとおもう?」と首を傾げる。そんな便利な物がある訳ないだろ。って、心の中で突っ込みながら、俺は笑顔をキープして、
「シンプルなモノも工夫次第で美味くなる。」と言いながら、一緒に雑誌の特集ページを選び、基本のトリュフの作り方を、きちんと写真入りで紹介されているのを選んで、美咲に手渡した。美咲は
「頑張ってみる。」と笑顔を見せる。いや、頑張って欲しい訳じゃないんですけど……
「美咲、俺は、美咲が俺のために作ってくれればそれでいいんだ。」とそっと頬を撫でた。
……本屋の中じゃ、キスも出来ないことがもどかしい。

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