草花治療師の恋文
「マーガレット様。」


セイリンはマーガレットの部屋の扉をノックした。


「…はい。」


マーガレットの声は緊張していた。

その事に気付いたセイリンは、一言付け足した。


「今は私1人でございます。」


バタバタバタ…ガチャ‼︎


勢いよく扉が開いた。


「セイリン‼︎」


マーガレットは部屋から出てきてセイリンに飛びついた。

セイリンにしがみついたマーガレットは、セイリンの胸あたりまでの背丈で、服に顔を埋めた。

しがみついた手は少し震えていた。

セイリンは、マーガレットのクルガに対する態度で確信した。


(やはり…あの日の記憶はもどっている。)


マーガレットの言葉が戻った時、記憶の事には触れなかった。

それは、思い出す事によってまた言葉を失うことを恐れたからだった。

今なら大丈夫なのかもしれないが…。


「マーガレット様…。」


セイリンはしがみついたままのマーガレットを見た。

そこにいるのはクルガに怯える14歳の少女で、見た目は大人びているが心はまだまだ脆い年頃だ。

セイリンは言葉を飲み込み、マーガレットの頭を優しく撫でた。



しかし…。

大人ではないが、執事にしがみついて甘えていい幼児でもない。

他の使用人に見られたら…というのもあるが、何よりもセイリン自身がつらい。

しがみつかれれば当たるものは当たるし、反応するものは反応する。

14年来の主従関係で、マーガレットからの信頼は厚い。

だか、セイリンも24歳の青年だ。

理性を保つにも限界がある。

頃合いを見て、セイリンはマーガレットを引き剥がした。


「さぁ、今日は薬草学の日でしたね。お部屋に戻って学習なさってください。」


セイリンは精一杯平静な振りをした。

しかし、マーガレットは目に涙を浮かべ、セイリンを睨んだ。


「…セイのバカ。」


表情とは裏腹に、静かにそう言うと、マーガレットは自室に入り扉を閉じた。

セイリンは1人溜息を付き、執事室に戻った。
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