君が笑ってくれるなら
11章/あなたの隣に
結城さんが西村嘉行の原稿に意見したという噂を聞いたのは、コンサート当日の昼だった。

若い男子社員が食堂の隣のテーブルで、ランチを食べ終えながら話していた。

「結城が銀田末シリーズの原稿にダメ出ししてさ。明日、西村先生がお見えになるそうだ」

わたしの耳はダンボになっていた。

「アイツ、涼しい顔してずいぶん大胆な指摘をすると評判らしい。大御所にもお構い無しで」

「西村嘉行、梅川百冬、霜田……大御所ばっかりじゃないか。凄いな」

「あの噂、存外本当なんじゃないか?」

「あー、あれね……綺麗な顔だし華奢だから違和感なさそうだしな」

「とくに西村先生は結城のパトロンだという話は、余所の担当の間では有名だしな」

口に含んだお茶を噴き出しそうになった。

──結城くんはダメよ。彼にはパトロンが居るんだから

< 136 / 206 >

この作品をシェア

pagetop