君が笑ってくれるなら
13章/好きと言ってもいいですか
西村嘉行が結城さんを訪ねてきたのは、コンサートの翌日、10時前だった。

ミステリーの大御所がわざわざ、親子ほど年の差もある編集担当を訪ねてきたと、社内がかなりざわついた。

しかも訪ねてきたきっかけが、他でもない結城さんの西村嘉行作品へのダメ出しだという点で、話題度は一気に増した。

和装に身を包んだ巨体が社内を闊歩する姿は、それだけで目を惹いた。

結城さんがその西村嘉行を編集部へ案内する様子も何事かと、噂が噂を呼んだ。

西村嘉行が編集部から出てきたのは、出向いて1時間半を回っていた。

同期の受付嬢が昼休みに食堂で「1時間半も西村先生と何を話したのかしら」と、話しかけ同じテーブルに着いた。

結城さんと西村嘉行が円満に交わす姿を目撃した社員たちも、不思議そうに「結城って何者だよ」と、話していた。



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