君が笑ってくれるなら
零れ落ちそうな涙。
瞬きを堪えて顔が歪む。

俺はそっと、ハンカチを差し出す。

先日、返されたコートと傘を入れた袋にそっと忍ばせたメモに電話番号とメールアドレスが記されていたのを思い出した。


「愛していらしたんですか、紗世さんを?」


――ああ、身を裂かれたような思いだ


和泉の頬に涙が伝う。


――まだ彼女の居ないことを受け止められない。振り向けば、そこにいる気がする

和泉の手が、頬に伝う涙をしきりに拭う。
涙は止めどなく流れる。

俺はゆっくりと丁寧に文字を書き、思いをこめる。



――今でも……愛している


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