心の中を開く鍵
「真由は、潔い女だったんだな」

感心したような呟きに、苦笑した。

「ありがとうございます」

「褒めたワケじゃない。そうか……お前って孤独な奴だったのか」

大学で友達がいなかったのはともかく、あなたはデリカシーがない。
そんなことは当人を前にして言うことではなくて、心の中で思い留める事柄でしょう?

まぁ、言わなければどう思っているかはわからないかもしれないけれど、私は私であの当時、精一杯の自己主張はしていた。

仕事なら仕方がないし、友達を大切にするのも解る。
その友達が当て擦るような事を言ってきたところで、それはその当人の品性の問題で、あなたには関係がなかった。

でもね。今さら感心されるって事はね、当時からあなたは私に“関心”がなかったって言っているのも同然なんだけどね。

一瞬だけ怒りがこみ上げて、だけど一瞬だけでおさまった。

……アホらし。やめたやめた。意味がない。

無表情になって、唐突に歩き始めたら、翔梧がぎょっとしたような顔をして何故かついてきた。

「だから待てって」

ずいぶん昔にずいぶん待った。今は待つ義理はないし、義務もない。
私は私の思うように生きることにしたんだから、今さら蒸し返さないで欲しい。

「真由!」

「あなたに名前で呼ばれるいわれはありません」

「山根とは呼んだことはない」

だからって、今も呼ぶのは違うと思う。

「高崎さん。ハッキリと申し上げます。確かに私が終わらせた事なのかもしれませんが、もう三年も前の話だし、私を覚えていてくれたのは嬉しいけれど迷惑です」

「なら、俺もハッキリ言おうか」

何をハッキリ言うつもりよ。

「終わった話なら、また口説いても問題はないだろう。そのつもりでいるからよろしく」

「……は?」

ピタリと立ち止まると、翔梧は二・三歩先まで歩いて振り返る。

「だから、よろしく?」

よろしくって……。

「バカじゃないの!?」

そう言ったら、楽しそうな笑顔が見えた。









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