心の中を開く鍵
「……翔梧って、あっさりしていそうで、全然あっさりしていないよね」

「気づいてなかったのか? 大学ん時も、俺は付き合うまで相当しつこかったと思うんだけどな」

それは“付き合うまで”の話かな。

確かにいつの間にか近くにいて、いつの間にか付き合っていたような気もするけど。

ここまでしつこいとは思っていなかった……のは、気持ちの問題なんだろうか。

あの頃は“好き”という感情が先に立っていたろうし、そういった執着心は逆に嬉しかったのかも。

じゃあ今は、と、言うと、ある意味冷静で、ある意味混乱していると言うか……。

「それに俺はあの頃と違って、いろいろとふっ切ってるところがあるし、真由も気を付けろよ?」

「……はぁ」

爽やかに笑顔で、そんなことを言われても困るけど。

「……翔梧。私より以前の彼女に、気持ち悪いって言われたことない?」

「お前、案外酷いこと言うな……」

傷ついた顔されて肩を竦めた。

だってねぇ。怖くはないけど、その執着心はどうなのかな。

歩きながら考えて、考えても仕方がないから聞いてみる事にした。

「……翔梧は、どうして私なの?」

「ん?」

質問が唐突すぎたのか、意味がわからないという顔で見下ろされる。

「……私、よく言っても平凡な容姿だし、何が取り柄って、たぶん翔梧が言うように真面目なことくらいよね」

「ついでに少し頑固だな」

それは誉め言葉には聞こえないけど、翔梧はそう思っているらしいから、心に留めておこう。

「そんな女なんて、どこにでもいるでしょう? 六年も想われる理由がわからない」

そっと呟いたら、翔梧は少し困ったような顔をして、指と指を絡ませて手を繋ぎ直す。

それからしばらく黙って、人混みの中を歩き……。

真剣な顔で見下ろされた。

「結婚まで考えた女だ。ずっと想っていて悪いか」

頭のなかが、真っ白になった。
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