心の中を開く鍵
「サンキュ」

そう言うと翔梧はおにぎりを受け取って、黙々と……五口で食べたよ、この人。

「翔梧。もしかしてお腹空いてた?」

目を丸くしたら、翔梧は赤信号で車を停めて振り返り、困ったように微笑んだ。

「昨日、昼も夜も飯抜きなもんで」

ばっかじゃないのっ!?

「身体壊すから! これも食べて、これも」

慌ててアルミホイルを剥がして、おにぎりを手渡すと、それを見て翔梧は肩を竦める。

「食べかけの方がいいなー」

「アホじゃないの?」

「それは言い過ぎ」

苦笑に苦笑を返して、文句を言いながらも翔梧はおにぎりを食べた。

しばらく道なりに車を走らせて、大型スーパーを見つけると、パーキングに車を停める。

「ところで、この寒いなかバーベキューとかする感じ?」

「だと思う。砂川さん好きだし。チビも好きだし」

「チビちゃんはいくつ?」

車を降りながら聞いたら、翔梧は大きく伸びをしながらあくびをした。

「確か、五歳になるんじゃないか? 人の子の歳なんて、取引先くらいしか覚えてねぇよ」

覚えているのが素晴らしいよ。

くだらない事を言ったり笑ったりしながら、カートを押して買い物をする。

適当にぽいぽいカゴに入れる翔梧に呆れて、口をあんぐりと開けた。

「ちょっと、少しは選びなさいよ。レトルトカレーとかキャンプにどうするの」

「……真由が母ちゃんみたいだ」

「余計なこと言ってんのはその口?」

ちらっと睨んでから、レトルトカレーのパッケージを見る。

もしかして、毎日こういうもの食べてるんじゃないでしょうね。

でも、翔梧は……作るようなタイプでもないか。
学生時代も、ほとんど私が作っていたし、翔梧が作るとすれば、カップラーメンだった気がする。

「何をニヤニヤしてんだよ」

「……ううん」

軽く首を振ってから、レトルトカレーを棚に戻した。

最近は、楽しかった頃の事も思いだす。

たまに一緒に買い物をしたこととか、大学からの帰り道を、延々話しながら歩いて、迷子になった事だとか。

懐かしく思い出せる事は、たぶん良いことなんだろう。

「魚介系も買おうよ。何かいいのあればだけど」

「やっぱりバーベキューは肉だろ肉」

「お肉くらいは部長さんも用意してるでしょうよ」

そんな風に買い物をして、それから部長さんが借りたコテージに向かった。










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