きみの愛なら疑わない

美麗さんの父親である城藤グループ会社の社長もマイクの前で土下座をしそうなほど恐縮して詫びた。

気まずい空気のまま静かに披露宴は進行した。
出席者のセレブ数人が即席の余興でヴァイオリンを演奏し、急に呼ばれたのだろうマジシャンが子供を巻き込みマジックを披露して冷えた空気を盛り上げる。

それでも出席者、会場スタッフまでもがこっそりと慶太と城藤の関係者の顔色を窺っていた。
美麗さんの親族席は誰もが常に下を向いていて顔色が悪く、母親は途中で退席してしまった。

慶太は各テーブルを回ってお酌をすることもなければ食事にも手をつけない。雛壇に座ったまま一度も立ち上がることはなかった。

予定より遅れて始まった披露宴は予定よりも早く終了した。
最後まで美麗さんは戻ってくることはなく、出席した全員が後悔するものになってしまった。










結婚式から数日たって美麗さんからLINEがきた。

『心配しないで。美麗は幸せです』

短いメッセージでは現在の居場所も、結婚式のあと慶太とどうなったのかも分からない。

話し合いは行われたのだろうか……お腹の子供はどうなるのだろう。

けれど私はもう関わることをやめた。
自分のしてしまったことに後悔はしていない……とは言い切れないけれど、これで良かったのだと言い聞かせた。罪の重さに向き合うことから逃げたかった。
美麗さんと連絡を取ることを避け、一切を忘れようとした。

噂では美麗さんは城藤の家から絶縁され、行方不明になっているという。

駅前でKILIN-ERRORのメンバーを見かけることはなくなり、その後も彼らの名前を聞くこともなくなった。
現在美麗さんがどんな生活をしているのか知ることはできない。

慶太の虚ろな顔だけが頭から離れないまま、美麗さんと私の秘密が関係者の誰にもバレないように願いながら大学を卒業した。

このまま都合よく過去を蒸し返されなければいい。
慶太は最低な女と入籍しなくてすんだし、美麗さんは匠と幸せになっているはず。

これでいい。もうこれ以上誰も傷つかないのだから。



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