きみの愛なら疑わない

美麗さんが寝てからもスマートフォンには度々LINEの通知が来る。その度に画面を覗くと、それぞれ別人からのメッセージのようだ。交友関係が広くて感心する。

メッセージを送ってきた人の中に次の『浮気相手』がいるかもしれない。美麗さんなら三股でも四股でも、誰とどうなったって驚いたりしない。

慶太の声を頭の中で反芻する。
たった一度話しただけ、遠目に見ただけの男にここまで感情移入する自分がおかしい。接点のない男のことなんて放っておけばいいのにそれができない。どうしても慶太のことを考えてしまう。
不幸になってほしくない。どうしても結婚してほしくない。美麗さんのような滅茶苦茶な女を好きになってくれる素敵な人を遠ざけたい。

私はそこまで美麗さんを羨んでいたということ? 恵まれた美麗さんに対する嫉妬の裏返し?

何度も何度も考えた。考えた末に私は自分のスマートフォンを手に取った。

匠は美麗さんを諦められない。そのことに懸けてみようと思った。美麗さんのために作った曲は何度も聴いたせいか覚えてしまった。狂おしいほどの愛の歌は美麗さんへ向けたものだ。

美麗さんの妊娠を知ったら匠はどうするだろうか……。

LINEの友だち一覧から『匠』を探して電話をかける。あとは魔法の言葉を囁くだけだ。

美麗さんは妊娠していて、今更やめられないから慶太と結婚しますよ。匠さんはそれでいいんですか?

こんな言動をする自分に呆れる。ここまで私は歪んだ人間だったのだ。美麗さんを責められない。そのことが嫌になる。

そうだ、私は美麗さんの共犯者だ。非常識な花嫁の友人で花嫁を好いている男を唆す悪女なのだから。

盛大な結婚式は目前に迫っていた。




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