鉢植右から3番目


 会社のロビーに入った時から夕方退社するまで休みなく飛んでくる中傷や誹謗や冷たい視線に、彼女は真っ青になりながらも毅然と堪えていた。

 そして一人で黙々と仕事をしていた。

 しかし勿論上に呼ばれることとなり、そのまま自己都合による退職と言う形になったんだった。

 その最後、上に向かうエレベーターで、俺は偶然、兼田に会った。

 酷い顔色で、自嘲気味に笑った彼女を覚えている。

「・・・行き着くところまで行ったの。不倫をしてた女への罰なのよね、これが」

 俺は、カチンときた。

 黙ってられなかった。

 だから彼女を見て言ったんだ。

「お前だけが悪いんじゃねえだろ。ビクビクするな。今日までみたいに、格好よく立ち向かってくれ。・・・俺は―――――」

 既に泣きそうな彼女の顔が、更に歪んだ。

「・・・俺は、軽蔑したりしないから。兼田は、恋愛をしただけだろ」

 まだ上にはついてないのに、途中の階のボタンを押して、彼女は走って出て行った。

 泣きに・・・行ったんだろうなあ~・・・・。エレベーターの中で、俺は自分の頭を叩いた。

 なんだよ、俺!偉そうに!

 どんなことを言っても、現実には確かに悪者だ。法律で守られている妻という座を脅かしてはいけない。妻が不快感を感じることはしちゃいけない。それが、法律だ。

 だけど、嫌だったんだ。不倫は悪いことかもしれないけど、それに一人で堪えている彼女を見るのが嫌だったんだ。


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