…だから、キミを追いかけて
さっきのキスは何だったのか。
灯台の女神が波留の心に悪戯をして、一瞬の隙を作ったのか。

私が起こした行動にムラッときて、単純にすけべ心が発動しただけかもしれない……。
2度目はしてこなかった……。それが正しい答えだ…と、波留が言っているようにも思えた………。


上りと違い、下りが冷静に下りれたのは、ある意味、波留の思いがけない行動のお陰だったと思う。
灯台の出入り口に二人して立った時、足の震えは全くもってなく、恐怖心や不安感は心の隅に遠のいていた。

見上げる空に輝く満月は、かなり真上に傾いていた。星は相変わらず見えもせず、薄い雲が棚引いているだけだった。



「……帰れるか?」

坂道を下りて、車の止めてある路肩へ着れて行かれた。

「平気……運転はできるよ……」

波留のキスのお陰でね…と心の中で囁く。気まずそうな雰囲気になるのが嫌で、自分から理った。

「今夜は付き合うてくれてありがとう…。パニックになって……ごめんね……」


そのせいで、キスまでさせたね…と自分を慰める。
何かを言い出そうとした波留は口籠り、「いや…別に……」と、言葉を濁した。


車に乗り込み、カーステレオを鳴らす。波留に手を振り、別れた瞬間から音量をフルに上げていった……。


しゃくり上げる自分の泣き声を聞きたくなかった。
泣いても届かない相手への気持ちは、何処へ持って行けばいいのか分からない。
苦過ぎるキスの記憶を消すこともできずに、独り、愛しみを味わったーーーーー。




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