めんどくさがり系女子の恋愛事情
5 夏美side


ーーーーー


目が覚めると、いつもとは違う天井が見える。


…あぁ、入院してたんだっけ。


と呑気に思っていたが、ふと重要なことに気がついてしまった。




家に連絡してない…。



きっと学校が電話なり、何なりしてくれてるとは思うけど、あいつは間違いなくぶっ倒れてるだろう。


そして桃以上の剣幕で、どうしてこうなったのか、根掘り葉掘り聞いてくるに違いない。



…めんどくさい…。

心配してくれるのはありがたいけど、めんどくさすぎる…。



はぁ、とため息をつくと、外からドタドタと走る音が聞こえてきた。

やばい…


来た。




ガラッ
「夏美!!大丈夫かぁぁ!!!」





「…。

拓也、うるさい。」



…やってきたのは兄の拓也だった。


明るめの茶色の髪、すっと通った鼻筋

アーモンド型の目で見つめられたら倒れる女子もいるほど。

私にはかっこいいのかわからないが…


この人は世間的にはイケメンなのに極度のシスコンという残念な人なのだ。



大学生にもなって、高2の妹を心配するとは…そういうものなのか?



「拓也、ここは病院なんだから静かにしなさい。」


「父さん!」


よかった…まともな人が来てくれた。

父さんはいつも冷静沈着で、取り乱すことはほとんどない。

だからこそ、なんでこの人からあんなうるさい拓也が産まれるのか…永遠の謎である。



「夏美、大丈夫か?

ケガのほうはどうだ?」


「うん、もう大丈夫だよ。

今日退院できるって。

心配かけてごめんね。」



「いいんだよ。

大事にいたらなくてよかった。」



病室が温かい空気に包まれる。

家族っていいな、と思う瞬間だった。




「夏美ぃー、ほんとに大丈夫なのか!?

ちゃんと検査したのかぁ!?」


…このうるさいやつを除いては。



「先生が大丈夫って言ったんだから大丈夫だって。

それに頭打ったわけじゃないし。」


「でも、万が一ということも考えて、検査したほうが!」




ガラッ

「病院では静かにしてくださいね~」


ナイスタイミングだよ!先生!!



拓也の声を遮るように

にこやかな顔をして医師と看護師さんが入ってきた。



さすがの拓也もこれには大人しく従った。




「うるさくしてすみません。」


「いえ、大丈夫ですよ。」



謝る父さんに、スマートな対応をする医師。

…2人ともさすがだな。


どっかの誰かさんにも見習ってほしいわ。



「ご家族の方々にお話がありまして。

昨日夏美さんにはお話したんですけど、ケガはほとんどが打撲で、骨に異常はありません。

昨日のうちにでも退院できたのですが、大事をとって今日退院ということにしました。」



「そうでしたか…ありがとうございます。」


深々と頭を下げる父さん。

それに続いて慌てて頭を下げる拓也と私。

しかし私はお腹があざだらけなのを忘れてて、


「いててて…。」


思わず口に出してしまった。

小さなつぶやきだったが拓也の耳には届いたようで


「夏美!?大丈夫か!?」


と心配されたが、何とか振り切った。


それでも拓也はごちゃごちゃと言っていたが、一睨みすると大人しくなった。


最初から静かにしてればいいものを…。




まだしばらくはケガのところが痛むようだが、普段の生活には何の支障もないらしい。


退院しても通院するように、と口酸っぱく言われたが、さすがにこのケガを己の再生能力だけで治すのは無理だろう。



きちんと通院することを約束し、退院した。






< 52 / 88 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop