東の彦 外伝
金時はがむしゃらに母のもとへと駆けた。山姥のもとへと駆けた。

そして、その膝へと落ちた。

「おっかぁ、おれは間違っていた。おれは人の世界に馴染むことばかり考えて、姫の気持ちなど考えもせず――」

金時は母の膝に幾粒もの大きな涙を落とす。

「人になった気でいた。だが、ただ姫に、母に、頼光様に、綱に、皆に甘えていただけだったのだ。あの時、酒呑童子に言われたとおりだった。鬼はおれのほうだったのだ。ただおれは同胞を殺し、己の罪を増やしただけだった」

山姥はは嗚咽が止まらずにいる息子の話をただ、黙って聞いていた。

(おれは知っていたんだ・・・・・・あの日あの時、、金髪の鬼は姫を襲っていたんじゃない、助けていたんだ。姫の切断されたあの足の傷口に掛けられていたのは鬼の法力,姫の出血を防ぐための・・・・・・そう、俺と同じ鬼の力・・・・・・)

「鬼は己だったというのに姫の想い人を殺してしまった」

(怒りに我を忘れて、あの時既に大事なものを失っていたんだ)

金時は老いた母の手を取った。

「すまない、おっかあ。おっかあを助けられると思っていたのに、おれは、おれでは・・・・・・」

泣きじゃくる息子をまっすぐみつめ、山姥は静かに首を横に振った。

「気に病むことはないよ金の字。おまえを人にできなかったのは私の罪だ。それに、もう自分の侵した罪を消そうなんて思ってはない。儂はもう人になれなくてもいいのだ」

「すまねぇ すまねぇ おっかあ」

「かまわないよ、自分の望みを言ってごらん、金の字。」

「おれ、姫に、二人に、謝りたい」

声を振り絞った金時の告白に山姥は愛しいわが子の背をさすった。

「今までよく頑張ってくれた。儂のせいでつらい思いをさせたね。お前が人であろうと鬼であろうと愛しい儂の子だ。お前の幸せを心から願っているよ」

そう言うと、山姥は二度と人へと戻れない道を辿った。金時の背に置いた山姥の手が柔らかく光りだした。

すると金時は見る間にちいさくなっていき光の中に消えていく。

こうして、金太郎は、もう二度と戻ることのできない人の道を踏み外したのだった。

< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop