君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)

「いいね」


言われてみれば私は、Tシャツにショートパンツという恰好で。
普段からこの恰好なので、特になんとも思っていなかったんだけど、こうしてじろじろ見られると、さすがに恥ずかしい。


「そういうふうにくつろぐ前に、と思って来たんだけど、着替えるの早いね」


そういう堤さんは、ネクタイこそ外しているものの、まだワイシャツ姿だ。
誰か来るなんて思ってなかったから、と自分に言い訳しながら、他に場所がなくて、ベッドに腰を下ろす。


「君はよくやってるよって、言われないと不安?」


堤さんが、いきなり核心を突いてきた。
飲もうとしていた缶ビールを、落としそうになる。

何か返事をしようと思うけれど、何を言ったらいいのか、さっぱりわからない。


「そういうのは、周囲に失礼だね」


ビジネスホテルの、決して広くないシングルルームで、ひざを突きあわせるようにして。
私は堤さんのほうを見ることができず、手元の缶に目を落とした。

失礼…。


「仕事は、忙しいよね」
「はい…」
「それは、周りから仕事をもらってるからだ。大塚さんだから頼んでるのに、それでも不安がるのは君を選んだ人への、侮辱になるよ。」


静かに言われて、顔を上げる。
堤さんの顔は、優しいけれど、笑っていない。


「…私は、何ができるんだろうと」
「そういうのは、考えるだけ無駄だから、やめなさい」


机に片ひじをついて、ぴしゃりと言った。

< 49 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop