Rolling Love
2.その日まで
 ぼすん、と派手な音を立てて、わたしはベッドへと――正確にはクッションめがけてダイブした。部屋の外からは近所の子供たちがはしゃぐ声と、カナカナカナカナ、というヒグラシの鳴く声が聞こえてくる。いつもと何ら変わらない、夏の夕方だ。この部屋は東向きだから、西日が射してこないのが夏場には本当にありがたい。
 よく晴れていて、夕方とはいえまだまだ明るいお天気に比べて、わたしの心の中は台風と地震がいっぺんに襲ってきたみたいに大荒れ状態だった。修ちゃんが、うちに来る。それもただ遊びに来るとかじゃなくて、これからここで暮らす。一度口に出してみても、あまりにも信じられないせいでさっぱり現実味が湧かない。

 修ちゃんがこの家に来たこと自体は、数えきれないほどある。小学校に入ってしばらく経つまでは修ちゃんも近所に住んでいて、「親戚、兼幼馴染」だったのだから、そりゃそうだという感じだ。現に修ちゃんが引っ越すまでは、わたしだって何度も修ちゃんの家に行ってたわけだし。引っ越しちゃってからは、お盆の時期にお墓参りに行くときに立ち寄るくらいになっちゃったけれど、それでもおばあちゃんの実家に一緒にお泊りしたことはある(私の父方のおばあちゃんと修ちゃんのおじいちゃんが兄妹で、お父さんと修ちゃんのおじさんが従兄弟、なのだ)。
 だけどよくよく考えたら、修ちゃんがこの家に泊まったことは、たぶん引っ越す前を含めてもない、気がする。無論、こちらに遊びに来る理由自体がないといえばないのだから当然かもしれないけど。っていうか、修ちゃんの部屋、どうするんだろう。
 一応我が家は、4LDKだ。1階のLDKに繋がってる客間扱いの和室が4畳半、2階は私の部屋と、両親の寝室。一部屋余っているかと思いきや、ここはお父さんの書斎だ。作り付けの本棚に、ぎっしりいろんな本が並べられている。この書斎のおかげで、わたしは今大学で勉強する気合が保てているわけだけど、まさか修ちゃんに書斎で寝起きしてもらうわけにもいかないし、かといってわたしの部屋はこのままだし。やっぱり、両親の寝室をどうにかするしかない、ような気がする。
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