麗しき星の花
 半年前に両親が向かった西の大陸は、先の魔王戦のときに真っ先に魔族に乗っ取られた大陸である。

 僅かに生き延びた人族を保護するため、世界平和維持機関ラルカンシェルの兵が派遣されたのだが、それに触発される形で魔族側が臨戦態勢に入り、今にも開戦の火蓋が切られそうな緊迫した空気に包まれている。

 それを収めるため、フェイレイ、リディル、そして魔族のクードはたったの3人でそこへ乗り込んでいったわけなのだから、一時も油断のならない、神経の擦り切れる日々を送っているはずだ。
 
 それに加えて、今度はドラゴンの棲息地。更に余裕のない旅になっていることだろう。

 あの両親のことだ。万が一など有り得ないとは思うのだが……危険地帯にあっても返事を欠かさなかった両親だからこそ、一週間も音沙汰がないとなると不安になる。

「……ルーかヴァンに手紙を送ってみよう」

 シンの提案に、リィはこくりと頷いた。



 結果は、芳しいものではなかった。

 手紙には、皇宮に連絡が来たのは7日前が最後であること、そのときには山脈に一番近いニルカイナ国の辺境の村にいたということ、現在もその村に滞在しているのか、現地にいるラルク隊員に確認させているところだということ、などが書かれていた。

 手紙の最後は、あの2人のことだからきっと元気だ、心配するな、という励ましの言葉で締めくくられていた。だが、その言葉でより一層、深刻な事態なのだと認識してしまった。

 シンの手にある羊皮紙が、くしゃり、と皺を作る。

「シン……」

 不安げなリィの顔を横目でチラリと見ただけで、シンは羊皮紙を丸めた。

「うん」

 それ以上の言葉が続かない。

 明るい顔で笑って見せたいところだが、シンもそこまで心に余裕を持てなかった。無意識に隣に座る妹の手を握り締めると、同じ強さで握り返された。

 その日は一緒のベッドで眠ることにした。不安でとても一人では寝付けなかったのだ。


< 184 / 499 >

この作品をシェア

pagetop