過保護な彼にひとり占めされています。




「すみませーん、通ります!ごめん!」



人の行き交う、10月のある日の午後のオフィス。

その中をバタバタと騒がしい足音を立て廊下を駆け抜ける。両手には数枚ずつクリップで留められた、大量の書類を抱えて。



「お、村本さん来週のイベントのパンフレット出来た?」

「はいっ!こっちがパンフレットで、これが今度の企画書……あっ!来月の予定もまとめておきました!」



肩ほどまでの茶色いボブヘアを揺らし、バサバサと書類を配る私に、フロア内にいた皆は『待ってました』といった様子でそれを受け取った。



東京、渋谷にある、白い外壁に大きな窓の二階建てのビル。

倉庫や資料室・作業部屋として使われている一階から、白い階段を上がった先にある二階フロアには20名分のデスクがずらりと並ぶ、広々としたオフィスが広がっている。



外に掲げられたメタルプレートの看板に、『SURPER NOVA Co., Ltd. Event plannig office』と書かれたここでは、今日も忙しなく雑務に追われる自分の姿があった。



村本一花、23歳。

『株式会社スーパーノヴァ』という、社員総数数百人という広告代理店のなかのちいさな部署のひとつ、イベント企画部で働く、イベントプランナーだ。



イベントプランナーというのは、企業や団体・個人などが行う発表会や展示会・パーティなどのイベントの企画や準備・運営をする仕事。

様々なイベントに適応する幅広い想像力と企画力、そしてイベントを運営するための体力も必要な、大変だけどやりがいのある仕事だ。



そんな仕事に追われ、今日もここ、新宿の本社ビルから少し離れた位置にある、イベント企画部オフィスでバタバタと動いている。



特に服装に決まりのないうちの職場では、皆私服勤務。

それは私も同じで、白いニットのカットソーに紺色のクロップド丈のパンツ、という動きやすさ重視の格好で動き回る。



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