Change the voice

「ああーもぅ、逢いたいなぁ」


と口に出したとたん、いきなり後ろから勢い良く頭を叩かれた。


「いっ……」

「スキャンダルになりそうなことを大声で言わない！」


振り替えると、鬼の形相をしたマネージャーが仁王立ちしていた。

手には金棒ならぬ、きつく巻かれた台本が。



「多岐川くんも先輩なんだから後輩の言動はしっかり注意する！」

「はいはい」



『ビリケン！』のレギュラーが決まってから専属マネージャーになった篠田さんは、グリーンズプロダクション切ってのやり手マネージャーで、今は多岐川さんを含めた数名の声優を仕切っている。


多岐川さんよりも先輩の、見た目も中身も肝っ玉母さんという形容がしっくり来る名物マネージャーだ。



「スキャンダルって……芸能人じゃあるまいし」


「芸能人ですよ、立派な！お願いだから売り出し中のこのタイミングで、女関係とか絶対NGよ。付き合うなとは言わない。言わないけど、バレないようにして」


語気に気圧されて、ちらりと多岐川さんに目をやると、神妙に頷いていた。

とても助けを頼めるような状態ではない。



「いい？」

「は……はい」

「分かればよろしいッ！」



篠田さんはぷりぷりと大きなお尻を振りながら、その場を離れていった。


「――――多岐川さんも結婚される時大変だったんスか？」


篠田さんが十分離れて行ったのを確認しての発言だったが、何故かそれは小声になってしまった。


「いや、俺ン時はそれほど煩くはなかったからな。今程、声優の露出もなかったし」


言いながら、ひょいと某出版社が置いていった試し刷りの声優雑誌を取り上げた。


「やっぱあれだね、２年前彼が出来婚したのが大きかったね」

「彼？」

「そう、彼」


とんとんと雑誌の表紙を指挿される。



「我が"弟"蘇芳環こと上野巧臣くんだよ」