Change the voice
特徴と特性
演技のトレーニングは積んできていたものの、声の仕事に関しては全くの素人であったため、新たに技術を学ぶ必要があった。


そこで林さんに紹介されたのが、グリーンズプロダクションの看板声優、多岐川新さんだった。


「舞台上がりでいきなり俺ンとこ来れるなんて、贅沢なヤツだな、お前は」


グリーンズプロダクションが運営する声優養成所・新緑荘の非常勤講師を勤める多岐川さんの元で、決して安いとは言えない授業料を払って、半年間、みっちり声優としての技術を学んだ。


マイクの立ち方、台本の扱い方、声の出し方――――基本的ではあるけれど、今や声優は人気職業。基本を知らずしておいそれと現場で面倒を見てもらえるような業界ではないのだ。


常時百人単位で受講生を抱えていながら、そのまま養成所から事務所所属へ上がれるのは1人か2人だというから、準所属として拾われたのはかなりの幸運だと言えた。


とは言え、名ばかりのマネージャーは一人頭10人以上の役者を抱えており、何の説明もないままあちこちにボイスサンプルを送らされたり、オーディション審査に臨まされたり、養成所の受付を手伝わされたりもした。


オーディションは落選続きで、たまに入ってくる仕事と言えば、バーターの端役や地方CMのラジオの仕事ばかり。


とても思う存分演技ができているとは言い難い状況だった。


(こんなことなら雇われでも舞台を続けていた方が、役者をやれてたかな……)


養成所の事務室で受付のバイトをしながら考えていた時に、飛び込んできた初めての大きな仕事――――それが『過ぎた春に君を思へば』というBLゲームだったことは、様々な意味で大きな人生の分岐点だったと思う。
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