最悪な出会いから
意外な新人
 初めての大きな仕事を無事完成させて。それは勿論、工事に携わってくれた全ての方のお陰で。

 私はいつものようにヘアサロンや子供服の店、喫茶店。女性の感性が活かせる店舗のデザインの仕事をしていた。

 そんなある日、社長から呼び出された。ノックして社長室に入る。するとそこには……えっ? 御曹司?

「紹介するよ。と言っても、もう大阪で会っていたね。きょうから家で働いて貰うから」

「はぁ?」
 今、何とおっしゃいました? 聴き間違いか?

「八代伊織(やしろ いおり)です。宜しくお願いします」

 そんな名前だったんだ。時代劇の役者か? とツッコミたかったけど。

「お父様のアパレル会社は、どうするんですか?」

「あぁ、あれは姉にやって貰います。今も常務取締役ですから、姉の方が向いていると思います。僕は洋服は苦手なので、さっぱり分かりません」と笑った。

「彼は大学も建築を専攻していてね。世界中の建築物を見て周っていたそうだよ」

 えっ? 世界をただ放浪していたプータローじゃないの? あまりにも意外な展開に頭が付いていかない。

「そういえば彼のお父様が藤村君をとても気に入っていてね。もしも君さえ良ければ家に嫁に来て貰いたいと言っていたよ」

 はぁ? ……という事は……。
 冗談じゃないわよ。なんでこんなプータローの御曹司となんか。

「社長、今のは悪い冗談ですよね」

 そう言ったら、社長は楽しそうに笑っていた。

 隣りの御曹司はといえば……。よく分からない。プレゼンに文句付けているところとバーで酔っぱらっているところ。それ以外、見た事も無い。

 そういえば、あの後、大阪には何度も足を運んだけれども完成パーティーの時ですら彼は現れなかった。いったいどういう奴なんだ……?

「あの時は申し訳ありませんでした。実は、あのビルには何度も行って自分なりのイメージが出来ていて……。でもあなたのデザインが素晴らしくて、負けを認めたくなくて、悔しくて、あんな失礼な事を言ってしまいました」

「彼はどうしてもこの仕事に就きたいとお父様を説得したそうだ。そういえば、藤村君は何歳になった?」

 はぁ? こんなシチュエーションで女性に年齢を聴くか?

「三十一歳になりましたけど……」
 悪かったわね。三十路で……。

「そうか。伊織君は三十歳だったね。うん。丁度いいね」

 何が丁度いいんだ? 私はここで社長室で、お見合いでもしてるのか?


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