最悪な出会いから
歓迎会
 その週末の金曜日。御曹司の歓迎会の席が設けられた。

 会社自体は土日休みでも、経理や事務の女の子以外は、クライアントの都合次第で仕事になる場合も多い。そんな時は平日に代休も取れるようになっている。

 私は明日は仕事なのに……。今夜が出張なら良かったのに……。都内に居て顔を出さない訳にはいかない。

 家の社の宴会。歓迎会、送別会、新年会、忘年会……。いつも和室のいわゆる宴会場のセレクトが多い。

 それは何故か? 
 腰を据えて飲みたい輩が社長を筆頭にたくさん居られる。女性にとってセクハラギリギリの事態もありうる。

 だから私は宴会は嫌いだ。特に和室の宴会場が……。

 立食パーティーなんてお洒落な雰囲気は我が社には無い。それだったら誰も知らない内に、そっと逃げ出せるのに……。

 お酒が嫌いな訳ではない。が、私は芸者でもキャバ嬢でもない。

 なぜ全員にお酌をして回らなければならないのか? それが納得いかない。

 入社して九年も経つのに未だに慣れない。まぁ、そんな事に慣れてしまいたくも無いけれど……。


「だから結婚出来ないんだよ」
 と酒の席とはいえ男性の先輩に言われる事もある。

 だったらお聴きしたい。笑顔でお酌出来れば結婚出来るのか? ニコニコお酌していれば結婚生活は成り立つのか ?

 主婦業を嘗めちゃいけない。家事を甘く見るんじゃない。


 それにしてもだ。そういう事を平気で言う男性に限って恐妻家が多いのは何故だろう。

 だから結婚したくなくなる。そういう女性の気持ちは全く理解されない。


 別の人生を生きて来た男性という異星人と一緒に生活するなんて、考えただけで無理だという結論に達する。自分のお世話をするだけで充分大変なのに……。異星人の面倒まで見られない。今の私の正直な本音。


 歓迎会はといえば……。既に挨拶も終わって、みんなそれぞれ勝手に飲んでいる。私は田中君と二人で話しながら飲んでいた。

 ふと見ると……。経理や事務の女の子は御曹司を取り巻き、何だか楽しそうにキャーキャー騒いでいる。彼の素性は既にバレているから玉の輿でも狙っているのだろう。

 ああいう子たちは分かり易くて、或る意味潔いのかもしれない。自分の欲望に忠実なのも、そのまま行動出来てしまうのも悪い事ではないのかもしれないと彼女たちを見ていて思う。


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