最悪な出会いから
静かなオフィス
「藤村さんにとって僕の第一印象は最低でしたよね。偉そうにクレームは付けるし、酔っ払って醜態は見せたし」

「そうね。お世辞にも好印象を持ったとは言い難いわね」

「だからです。僕は誰よりもあなたに認められる男になりたい」

「八代君がこれから努力して実力の有るデザイナーになって素晴らしい仕事をして世間に認められればいい事でしょう? 私が認めるとか認めないとかじゃないでしょう? 君の問題よ」

「…………」

「さぁ、私、仕事があるから」
 自分のデスクに向かった。

 二次会まで付き合って、この時間に出社するなんて。しかも昨夜とは違うスーツをきちんと着こなして。やっぱりセレブは違うのかな……?

 別に今から、三十歳過ぎてから一から始めなくても、親の敷いたレールに乗れば社長の椅子は約束されているのに……。

 やっぱり彼は変わってる。八年も一人で外国を放浪していたくらいだから。


 そんな事よりヘアサロン……。
 オーナーの希望は聴いた。美容院に必要な物は欠かせない。フロアの広さは変えられない。良いアイディアが浮かばない。お昼を過ぎても考えが纏まらなくて……。


 きょうは私と御曹司以外は誰も休日出勤して来ない。

 昨夜あれからかなりの盛り上がりだったとすれば……。皆さま二日酔いだったりして……。

 滅多に無い程の静かなオフィス。集中して仕事が出来るはずなのに、何でだろう……?


「藤村さん、もうお昼過ぎてますけど食事にでも行きませんか?」

「ちょっと今、手が離せないの。もう少し後にするから」

「そうですか。分かりました。僕ちょっと出掛けて来ます」

「はい。了解」

 でも彼は十分もしない内に戻って来た。

「早いわね。食事に行ったんじゃないの?」

「サンドイッチ買って来ました。藤村さんの分も。一緒に食べましょう? 休憩も必要ですよ。コーヒー入れますから遠慮しないでどうぞ」


 何で私は……御曹司と二人で……。
 会議用のテーブルに向かい合って座ってサンドイッチなんか食べてるのだろうか?

「あぁ、私の分、払うからいくら?」

「いいですよ。サンドイッチくらい」

「そういう訳にはいかないわよ。奢って貰う理由が無いもの」

「理由はあります。失礼な事を言ったお詫びのつもりです」

「それだったら……。フルコースくらい奢って貰わないと合わないわね」
 軽く冗談のつもりで言ったのに……。

「いいですよ。いつにします? 僕はいつでも構いませんよ」
 爽やかな笑顔でそんな事をさらっと言われても……。


< 7 / 17 >

この作品をシェア

pagetop