sinner

 
「こんばんは」


「っ、こんばんは」


ベランダで過ごすようになってから、以前は挨拶くらいだった隣の住人と話すようになった。


お隣に住む同じ歳くらいのお兄さんは、毎朝毎晩、ベランダに溢れる花の手入れをそれは丁寧にしている。色とりどり、よりどりみどりのどこかに沢山いる彼女たちを愛でると思っていたお兄さんの手は、隣人として知りうるかぎり、植物だけに向けられている。外見の派手さとのギャップは当初相当なものだった。


「いつも綺麗ですね」


お兄さんのアッシュに染めたさらさらとした髪が月明かりに透ける。あまり派手じゃないその髪色は、今以上には明るくできないと職場規範であるらしく、けど何のお仕事をしているのかは教えてもらえなかった。最近話した会話の中のことだ。


一見チャラそうなお兄さんは、丹精込めた花たちを誉められると頬を染めて可愛らしく純情に照れるので、実は私も心で相当照れながらその言葉を伝えていたりもする。


「ありがとう」


「わたしの煙草、この子たちに迷惑ですかね……やっぱり」


「やめられますか?」


「うっ、~ん」


「平気ですよ。それに、あからさまに風向きがこの子たちにいっているとき、止めてくれてるでしょ」


わたしたちはベランダの仕切り越しにお兄さんが咲かせた花たちを眺める。これも、もう恒例になったこと。


時々、星がよく見えると話もする。遠くで響く救急車の音を気にする。


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