そこにアルのに見えないモノ

…危なかった。

思わず手を出してしまったけど…。
助けずにはいられなかった。

ガラの悪い輩に絡まれたのではなくて、まだ良かった。 あの弱そうなおじさんで。

力ずくで何かされてたらと思うとゾッとする。

…あんな時間にあんな界隈を歩いていたら…危ないに決まっているのに。

あの子は高台で会った子だった。ほんの一瞬のこと、こっちのことは気がつかなかっただろう。



俺には取り返しのつかない過去がある。
望月 晶…。彼女の家庭を…壊してしまった。

俺のせいだ。
俺があの時、親父に軽はずみな言葉を口にしなければ…、彼女の父親だって…、死ななくて済んだんだ。
あの時の俺は腐っていた。…いい歳をして。

大学を出てグラフィックデザイナーをしていた。
6年続けていた。
なのに、なんだ、今更。

親父が跡を継げと言い始めた。もういいじゃないか。俺だって仕事をしている。無職でプラプラしてた訳じゃない。

いつもの気まぐれだ。
次期社長は身内ではなく、決まっていたはず。
‥何を今更って話だった。
気が変わるにも程がある。取り消される人間の身にもなってみろ。会社に、いや、親父にあんなに忠誠を尽くしてきたのに…。
人が人なら、刺されるくらいの事だ。
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