そこにアルのに見えないモノ


「いらっしゃいませ。
空いてるお好きな席へどうぞ」

俺は少し話がしたかったからカウンターを指して聞いた。

「カウンター、いいですか」

「…どうぞ。あまり、メニューは多くないですがよろしいですか?」

メニューを渡された。初めての客だ。間違いで入ったのかもしれないと思ったのだろう、親切だと思った。

「では…、オムライスと、あとコーヒーをお願いします」

「畏まりました」


水を出されたタイミングで尋ねてみた。

「あの、不躾にすいません。こちらに女性の従業員の方はいらっしゃいますか?」

マスターは手際よくオムライスを作りながら答えてくれた。

「貴方はどういった方でしょうか?
従業員の事は誰であれ、お教え出来ませんが。
こんなところです。厄介な事に関わる事になってもいけない。私には従業員を守る責任があります。
居るも居ないも、個人的な事なら、お教えする事は出来ませんが」

きちんとしたマスターの対応、教えられないという言葉。責任者はこう有るべきだと納得した。
ここに居るなら、いい人の元で働いているなと思った。

「怪しい者ではありません、と言っても、なんの信用にもなりませんが」

簡単に引き下がるつもりはなかった。せっかく来たのだ。俺は取り敢えず名刺を取り出し渡しながら言った。

「こういう者です。人を探していたものですから、すみませんでした。そうですよね。例え、お勤めされていても、色々伺う事はできませんよね。失礼しました。
食べずに帰ってすみません。お手間を取らせました。御馳走様でした」

代金を置いて店を出た。
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