そこにアルのに見えないモノ
空気


「悪い、俺ちょっと煙草買って来る。直ぐに戻るから」

「はい。直ぐですよ?」

「解ってる。直ぐ帰るから。誰か来たら水出して待たせといて」

「は~い」

総一郎さん、一日どれくらい吸ってるんだろう。
日中居ないから解らないけど。
好きで吸ってるのとは違う感じだけど…。習慣ていうか、癖?になったのかな…。



カランカラン。

「すいませ〜ん。あの〜」

「はい?」

お客様では、なさそうだ。可愛らしい女性…。

「あの、お店に柾木って人、居ますよね?」

総一郎さんの事だろうか、私は名字を知らない。

「ごめんなさい。私、店主の名字を知らないものですから」

「ふ〜ん。そうなんですね。そんな事あるんだ…」

何だか、上から下へ嘗めるように見られている気がする。ちょっと品定めされてる気分…。

「あの、少しお待ち頂ければ直ぐ戻ります。
ちょっと出掛けてるだけなので」

「…貴女、彼女?」

「えっ?!ち、違います、違いますよ。ただの従業員です」

慌てて顔の前で激しく手を振った。

「フッ、そんなに慌てなくても。まぁ、どっちでも特に気にならないし」

「本当に違いますからね」

「ん〜〜、どうしようかな。…また来ます!」

「あっ、待ってください…」

…行っちゃった…名前聞かなかった。

ドアにもたれて後ろ姿を見送っていた。
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