そこにアルのに見えないモノ
収拾


「コホン。はぁ…。
黒崎さんは、これで気が済んだのか?
こんな事して、…余計モヤモヤ為らないんだろうか…」

「総一郎さん、冷静ですね…」

「いや、客の手前、装ってるだけだ。…煮え繰り返ってる‥。

しばらく同じ客が来る度に、カオルちゃん、からかわれるな…」

気のせいか…、総一郎さんから不穏な空気が漂っているような…。

マスターで居ようとは、してるようだけど…。

「私には黒崎さんの気持ちを語る事はできませんが、もの凄く悩んだ挙げ句、出した答えがこれだと思います。

これが黒崎さんの終わらせ方なんじゃないかと思います」

「だろうな。嘸や苦しんだと思うよ。今だって解決した訳じゃ無い。
まだこれからだってずっと苦しい。

俺なりにだけど、解るよ。
…ずっと好きでいる気持ち」

「随分、寛大なんですね」

「寛大か…。ちょっと違うな。
第一、俺は妬いてるからな。
男として、好きになる、なり方が解ると思っただけだ。…一度着いちまった火はすぐには消せない。
カオルちゃんの方こそ、随分冷静だな」

「冷静では無いです。
何が何だか解らな過ぎて、頭もついて行かないし、振り切れてしまって…、だから…、こんな状態なんです。
これは放心してるんです」

「そうなんだ…」

「あのぅ、総一郎さん…」

「何?」

「さっきからずっとなんですけど…」

「ん〜、何?」

「もう、離れてもらえません?仕事中ですから」

「ちっ、バレたか…」

「…。いや、そんな問題では‥」

ずっと、後ろから私の腰に腕を回して、抱きしめていたのだ。

「…盗まれちまったからな、黒崎さんに、晶の唇。

心は持って行かれないように掴まえとかないとな、と思って。
…体もな」

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