天使が私に落ちてくる


人の多い所が苦手な天使は、保育園ではあまり表情を変えない。ママ同士が仲良しで、お互いの家を行き来するようになってからの天使は、あたしには懐いたようで笑ってくれるようになっていたけれど、それもまだ少ない。


あたし、ホントの猫だって思われているのかも。天使も猫になら、あんな笑顔になるのかも。


その時、佳奈ちゃんが天使の腕を引いて自分の方に向かせた。


「パパ忘れ物。行ってらっしゃい」


そう言ってほっぺたにキスをした。はにかむように離れる佳奈ちゃんとは対照的に、驚きで目を見開いた天使は、すぐさまほっぺたを服の袖で拭った。


「……キスしないで」


たちまち天使の涙は決壊しそうなまでに盛り上がる。慌てた佳奈ちゃんが謝るのも聞かないで、あたしの手を取ってぐいぐい引っ張っていく。


部屋を飛び出して、靴をはいて藤棚の陰にまで逃げ込む。


そこで初めて天使の顔を覗き込むと、ぼろぼろ泣いていた。
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