恋する歌舞伎
今日は賑やかな深川八幡の大祭の日。

事件のことはすっかり忘れ、酔いも回って浮かれた様子の美代吉。

そこで新助を見つけたので、何事もなかったかのように挨拶をするが、新助の手には刃物が光っている。

新助は美代吉に裏切られ、狂乱状態に陥り、

「美代吉はどこにいるか」

「あの女は鬼だ」

などうわごとを言いながら、さまよっていたのだった。

新助は永代橋が落ちるという騒ぎの渦中、因縁の小判を投げつけ、雨降る暗闇でかつて愛した女を刺し殺す。

何もかもを失った新助は、不気味な笑い声を残して町の者たちに担ぎ上げられていく。

そこに残っているのは不気味な静寂と、美しい満月だけだった。
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