恋する歌舞伎
吉野の下市村で、すし屋を営む弥左衛門(やざえもん)家族は、妻、息子、娘と四人暮らしだが、今は弥助(やすけ)という青年を住み込みで働かせている。

娘のお里は、ちょっと頼りないが、どこか憂いを帯びていて品のある弥助にぞっこん。

そんな弥助とお里は、弥左衛門の提案で祝言を上げる運びとなった。

これから夫婦になるのに、いつまでも他人行儀な弥助に対して、お里はもっと親しく接して欲しいと、「自分を呼び捨てにし、夫として威張ってもらう稽古」をつけるほど。

そんなのどかな一家の日常に、暗雲が立ち込める。

弥左衛門の長男、つまりお里の兄は、“いがみの権太”と通称があるほど、近所でも有名な不良息子として知られている。

あまりの素行の悪さに勘当されてしまったが、今日は金をせびるため実家にやってきたのだ。

権太は、自分に甘い母を騙して金を巻き上げることに成功する。

とそこへ、折り合いの悪い父が帰ってくるので、権太は金をすし桶の中に隠し、ひとまず奥へと退散するのだった。


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