恋する歌舞伎
意識が朦朧とする中、求女が実は淡海という立派な人だということ、自分の死は世の中のためになることを聞かされる。そんな方と一時でも愛し合い、役に立てたことは名誉だと喜ぶお三輪。


このあと淡海らの働きで見事に入鹿討伐に成功し、五段に及ぶ長編ドラマは幕を閉じる。物語全体を通すとハッピーエンドのようにみえるが、お三輪の目線に立つとどうだろう。

彼女は死ぬ間際、白い苧環を抱きしめている。

これは「苧環の糸のように長く2人が結ばれますように」というおまじないに因んで、付き合い始めた七夕の日にお三輪が求女に渡したものだった。

そして「最後にお顔がみたい。未来は添うてください・・・恋しい」と声を振り絞る。

お三輪が望んだことは、大きな偉業を成して後世に名を残すことよりも、ただ好きな人とずっと一緒にいたい。

その一念だけだったのかもしれない。


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