恋する歌舞伎
ここは江戸で一番の賑わいをみせる歓楽街・吉原。

今日も花魁道中(※1)を一目見ようと人だかりが出来ている。

皆のお目当ては何といっても遊女の最高峰・花魁揚巻(あげまき)。

会う人会う人にお酒を勧められ既に酔いがまわっているのか、舟を漕ぐような足取りの揚巻だが、その美しさは誰もが息を呑むほど。

そこへ、お金持ちそうだがいかめしい顔つきの老人・意休(いきゅう)がやってくる。

ご執心の揚巻を座敷に伴いたいと、常々通ってきているのだ。

ところが揚巻には助六(すけろく)という恋人がいる。

意休は、自分が振られ続けるのは助六のせいで、「あんな盗人のような男にいれあげているとお前もそのうち痛い目をみるぞ」と嫌味をいう。

自分のことは何といわれようとも、恋人の悪口だけは許せない揚巻。

二人を比べて「助六さんと貴方を例えるなら雪と墨、暗がりで見ても、助六さんと意休さんを取り違えたりしない」と啖呵を切る。


(※1)位の高い遊女が、所属する店から客の元へたくさんの人を引き連れ移動するパレードのようなもの。

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