恋する歌舞伎
為替の件に関しては理由があり、店に入れるはずのお金ではあったが、長右衛門が妻・お絹の弟の窮地を救うために百両を用立ててしまったという経緯がある。

しかし手紙については弁明の余地もない。

この手紙は近所に住む信濃屋の娘、お半(はん)からのものである。

実は先日、仕事の用事の帰り道である石部の宿屋で、偶然にもこの娘と会ったことがあった。

その晩、長右衛門の所に
「丁稚の長吉にしつこく言い寄られて困っている」
とお半が逃げ込んできたので、長右衛門はお半を自分の布団へと匿った。

あろうことか、この夜長右衛門は齢十四の娘と結ばれてしまい、更に子まで宿したのだった。


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