クロ * Full picture of the plan * Ⅳ

虹羽希輝 side




私にとって、お兄ちゃんはたった一人。



それが、どれだけ酷いことをした人でも。



どれだけ罪深いことをした人でも。



私は、お兄ちゃんの味方でいたい。



お兄ちゃんはずっと私の味方でいてくれたから。



-事故から1週間後。



ママ、パパ、そして来蘭のお通夜や葬儀を全て終え、またただの日常が始まろうとしていた。



…いや違う。



あれは'日常'なんかじゃない。



落ち着いたようで、内心はただ受け止めていなかった。



パパとママと来蘭が、どれだけみんなのこと考え、糸を繋いでいたかなんて、私にはわからなかったんだ。



希輝「……おにいちゃん。…たべないの、?」



都兎「…。」



あの日、お兄ちゃんが初めて私の前で泣いた日。



その日からお兄ちゃんは一言も喋らなくなった。



おじいちゃんや近所のおじさん、おばさんに慰めるように話しかけられても、お兄ちゃんは何も言わなかった。



だから、少なからず私やおじいちゃんはお兄ちゃんを心配していた。



喋れないのか。というおじいちゃんの問いには反応して首を横に振ったから、声を失ったわけではないのだろう。



それでも何かのスイッチを踏んでしまわないよう、踏み入ることをやめてしまったのも確かだ。



これ以上壊れるのを見たくなかった、なんてただの言い訳。



きっとあの時、私がお兄ちゃんを支えていたらあんなことにはならなかった。



ガタンッッ



希輝「っ!」



始まりの日が何日だったかは覚えていない。



けれど、唐突に朝家中に響き渡る音が私に届いたから、飛び起きて音の元を辿った。



都兎「……だ!…な………ろっ!!」



久々に聞いたお兄ちゃんの声は、酷く怒っていて、直接言われていない私でも恐怖で足がくすんでしまいそうだった。



バチンッ



強く何かを叩く音がして、震える足を引きずるようにその部屋へ向かった。



着いたのは、パパとママの部屋。



あまり立ち入ったことのないその部屋に恐る恐る踏み入れるが、お兄ちゃんの姿はない。



部屋も荒れていないし、物が壊れていることもなかった。



都兎「……が!!お、の………せ…いだ!」



でも、確かに聞こえるのはお兄ちゃんの声で、この部屋からなのだ。



中を歩き進んでみると、入口からは見えなかった本棚が動いていた。



本来ある場所がポッカリと開き、その空間からは光が射し込んでいた。


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