落ちてきた天使
「先生がね、本当にこの進路でいいのか私からも彩ちゃんの意思を確認してほしいって」



施設長は進路調査票の第一希望の欄に書いてある【就職】の文字を指でなぞると、再び私を見据えた。



「迷ってるんでしょう?本当にこれでいいの?」



施設長も担任も気付いてるんだ。

【就職】の文字の下に、何度も書いては消した跡があることを。



「迷ってません。これでいいんです…これで」



自分に言い聞かせるように「これでいい」と繰り返す。



児童養護施設出身者の大学進学率はかなり低いと聞いたことがある。

高校卒業と同時に施設を出て一人で生きていかなきゃいけない施設入所者にとって、大学に通いながらの学生アルバイトじゃ学費どころか生活費だって稼ぐのは難しい。

大学とバイトの両立。
例え、進学したとしても超多忙な日々が待っていて、結局中退する人が多い。

だから、ほとんどの入所者が高校卒業と同時に就職を選び独立していくんだ。


私だって今は施設に入所してるわけではないけど、同じ境遇には変わらない。

親がいない。親戚もいない。

自分一人で生きていかなきゃいけない。
それなのに、大学進学を選ぶのはやっぱり躊躇してしまう。



「亡くなったお父さん達が遺してくれたものがあるでしょう?」

「はい。でもそれは、あまり使いたくなくて」



お父さん達は私を本当の娘のように育ててくれた。

戸籍上は子供でも、私は本当の娘じゃない。


そんな私がお父さん達の遺産を使っていいのか、正直迷ってる。



「お葬式の時に聞いた話を気にしてるの?」



施設長は切なげな瞳で私を見据えて言った。
私は肯定も否定もせず、元気に準備する子供達に目をやった。



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