落ちてきた天使
「またあなたですか……もう放っといてくれません?」



今の私にはこの人と話す余裕も気力もない。


大体、この人何なの?
こんな所までついてきて、本格的に私を馬鹿にしに来たってわけ?



「お前、本当の馬鹿だな。施設長がお前一人で行かせるわけないだろ。俺はお前が先輩とやらの所に行くまでの言わば監視役だ」

「ああそうですか。ならご心配なく。行く所ならちゃんとあります。貴方に監視されなくてもちゃんと辿り着けますから」



私、施設長にどれだけ心配掛ければ気がすむんだろう。


施設長は繰り返す不幸の度に私に手を差し伸べてくれる。


感謝してもしきれないし、もうこれ以上迷惑掛けたくない。



はぁ、と遣る瀬無い気持ちを吐き出す。


そうだ、あの木の上で星空を見て一晩過ごすのもいいかもしれない。

あそこで夜空を見たことはないけど、眺めは多分最高だろう。


綺麗な星空を見たいっていう願いぐらいならしてもいいよね……



今日はもう疲れた。
明日からのことは明日考えればいい。


ブランコから立ち上がり、床が抜けたアパートの瓦礫の下から掘り起こした少しの荷物を持つと、男を見ずに歩き出した。


少しふらつく。前を向く気にもなれない。
ザッザッと足音を立てながら、ほぼ惰性で足を踏み出す。


履いていた白いスニーカーは、荷物探しですっかり汚れて、所々擦れたり破れたりしている。


このスニーカーは矢嶋のお父さんと二人で映画を観に行った帰りに一目惚れして買ってもらったものだ。


大切にしてた。宝物だったのに…
これさえも奪われるなんて……


じわりと目元に涙が滲む。
いつの間にか止まっていた足。


もう歩けない……


ぽたっぽたっとスニーカーに涙が落ちた時。



「俺の家、来るか?」



背中に届いたその言葉は、ボロボロになった私の心にスーッと染み渡っていった。






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