落ちてきた天使
それから暫くバタバタ忙しい日々が続いた。


子供達は他の施設に移ることになり、私はその手続きや火事の片付けに追われる職員の手伝いを買って出た。

一時的に公民館に避難している子供達の食事の世話や掃除洗濯、宿題を見たり小さい子供を寝かしつけたり。

時間が少しでもあれば、なるべく公民館に行くようにしていた。



「彩、最近ちゃんと寝てないだろ」



夜10時。
お風呂上がりに一杯、キンキンに冷えた麦茶を一気飲みしていると、カウンター越しに皐月が言った。


皐月とこうしてまともに話すのは久しぶりだ。

朝は5時に起きて公民館に向かって朝食の準備をし、皆を学校に送り出してから洋平と一緒に急いで登校する。
学校に着くのはいつもギリギリ。

学校とバイトを終えると、再び公民館に行って子供達を寝かしつけるまで手伝う。

マンションに帰るのは毎日夜10時前後だ。
それからお風呂に入って少し勉強をして、寝るのは深夜0時。


皐月は最近忙しいらしく、私が寝た後に帰ってくることもしばしば。朝は私の方が早く家を出るし、皐月とご飯を食べたのもゆっくり話したのも火事以来ない。



「ちゃんと寝てるよ」

「嘘つけ。目の下の隈、すげーぞ。無理してんだろ」



さすが皐月。
私がいくら隠そうとしたってすぐにバレてしまう。凄いって言うほど隈なんてないのに。
当人よりもよくわかってるというかよく見てるというか。皐月はどんなに小さな変化でも気付く達人だよ。


無理してないと言えば嘘になる。

寝不足だし、家事にバイトに足がパンパン。
肩も凝ってるし、立ち上がったりする度に「よいしょ」って声が漏れてしまう。

本当は、今ここにベッドがあったらダイブしたい。大の字で寝て、ぐーっと背のびしたい。

こんなに疲れたのは初めてってぐらい疲れてる。

だけど、今は皆のために何かしたいから、こんなの全然平気。



「今日は三人、明日は二人」

「え?」

「他の施設に行っちゃったの」





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