落ちてきた天使
「彩かえ…?」



震える手を私の頬に伸ばす。

私はその手に引きつけられるように、無意識に足が動いていた。



「おじいちゃん……」



予想より細く、折れてしまいそうだった。
骨張った手は弱々しかったけど、私の手をしっかりと握ってくれる。



「久しぶりじゃの……元気じゃったか?」

「っ、ぅん……うん、元気だったよ」

「そうかい、そうかい……小学校はどうだ?友達は出来たか?」

「え…?」



小学校?

弾けるように鈴井さんに目を向けると、介護士はコクリと頷いた。


そうか。おじいちゃんの中では、私は小学生で止まってるんだ。




「うん、たっくさん友達出来たよ!学校も楽しい」

「そうか……良かった。悪いなぁ……じいちゃん、参観日にも行けんで」

「ううん、大丈夫。その分、私がここに来るから」

「ほぉ……それは嬉しいのぉ」



穏やかに笑ったおじいちゃんに、涙が頬を流れた。


嬉しかった。
私を覚えててくれてた。

小学生の時のまま止まってたとしても、おじいちゃんの中に私という存在がまだ残ってる。


それだけで、凄く凄く嬉しくて、幸せだった。



「さ、幹二さん。そろそろ検査の時間ですよ」



鈴井さんがおじいちゃんに声を掛ける。
おじいちゃんは「はいよ」と返事をすると、「彩」と再び私を見据えた。



「また来てくれるかい?」

「もちろん!また来るね」



無理もなく嘘もない、自然に出た笑顔だった。

おじいちゃんも満足そうに顔を緩めると、ちょうど今入ってきた鈴井さんとは別の介護士さんに手伝ってもらって車椅子に乗り、軽く手を挙げて部屋を出て行った。



「幹二さん、嬉しそうでしたね」



鈴井さんがベッドの布団を直しながら言った。



「あの、今まで面会に来れずすみませんでした。お世話になりっぱなしで」



鈴井さんに頭を下げる。

おばあちゃんが亡くなってから数年、最後の身内の私が顔を出さなければならなかったのに、今日までそれが出来ずにいた。





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