落ちてきた天使
平年より一週間ほど早く梅雨が終わり、からっとした晴天になった7月初旬。


10年振りに芝生公園の木に登り、いつも座っていた太い枝の根元に腰を下ろした。



「はぁ〜、涼しい」



午後3時を過ぎ、気温が今日の最高値に達した。


梅雨が終わり、太陽が今度は自分が活躍する番だと言わんばかりに容赦なく照り付けてくる。


日差しで肌は痛いし、拭っても拭っても汗が滲み、日向はまさに地獄。


まだ夏は始まったばかりだというのにこの暑さ。この先が思いやられる。



それに比べて木の上は天国だ。


枝葉が強い日差しを遮って、爽やかな風が火照った肌を冷まし、まるでオアシスにいるようかのように心地いい。



「10年、か…」



あの日から月日はそんなに流れてしまったんだ。


私はあの頃から随分と変わった。


見た目、考え方はもちろん、人生、生き方。


それは私が私を守るために得たもので、必ずしも良い方に変わったわけじゃない。



「ここは変わらないな」



だけど変わらない大好きな景色がそこに広がっていて。


10年も経っているのに変わらないものがあるんだと、私はしみじみと嬉しくなった。





矢嶋彩。高校三年、17歳。


平々凡々な普通のーー、とは言えない不幸な星の下に生まれた女子高生だ。


17歳にして人生を諦めた。
諦めざるを得なかった日々を、ある時を境に送ってきた私。


もう何も望まない。
幸せも、愛も、何もかも。


望むから、失う。
失うぐらいなら、何もいらない。


“二度と大切なものは作らない”


これが、この短い人生の中で体得した事だ。



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