落ちてきた天使
「そんな目で見んな…」



益々、皐月の顔が赤くなっていくのは気のせいじゃないと思う。


人生最速と言っていいほど早鐘を打つ心臓。


熱っぽい瞳が私を捉え、見つめ合う。



苦しくて。


恥ずかしくて。


だけど、嬉しくて。


身体も心も、細胞までもが震えた。



「そんな目って…?」

「恥ずかしくて潤んだ目。そういうの男は勘違いするから」

「か、勘違い?」

「襲ってほしそうに見える」

「違っ…‼︎」



そんな解釈勝手過ぎる……
私は微塵もそんなこと思ってないのに。



皐月の柔らかい唇が「彩…」と愛しげに私の名を呼ぶ。



ゆっくりと伸びてくる大きくて骨張った手。


指先が頬に触れそうになった時、この緊張から逃げるように言葉を紡いだ。



「保護者って言ったくせに……」



皐月は手をピタリと止めると、聞き取れなかったのか「え?」と言葉を漏らす。



「校長先生に…保護者としてって言った」

「ああ…それが?」

「保護者は普通こんなこと言わない…」



完全に逃げの態勢だった。


この半端ない緊張から逃れるために何でもいいから逃げ道を作る。


そうしないと本当に心臓が爆発してしまいそうだったから。


でも、皐月は簡単には逃してはくれない。



「あの時はああやって言っとくのが校長先生の手前、最善だったんだよ」

「でも、」

「もしかしてちょっとショックだった?大切な人とか言って欲しかったとか」



さっきまで顔を真っ赤にしてたくせに。
私の意図に気付くと、皐月は獲物を見つけたかのようにニヤリと口の端を上げた。




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