落ちてきた天使
やっとマンションに着き、偶然にもすぐ降りてきたエレベーターに乗り込む。



始終無言だ。


皐月とはこれまで同じ空間にいても何も話さない、なんてことはよくあった。


だけど、全然気まずいと思った事もなければ、その時間が苦痛だと感じた事もない。


なのに何だろう、この凄く気まずい空気は……


隣りから怒りのオーラを感じる。
今すぐにエレベーターを降りたい気分だ。



確かに私が悪い。心配を掛けたのは事実だから。


だけど、何もここまで怒ることないじゃない。


洋平にも変な誤解されるような言い方するし。


悶々とするというか苛々するというか。



長かったようで短い時間は終わり、エレベーターのドアが開いた。


皐月はまだ私の手首を掴んだまま、ツカツカと共用廊下を進む。


そして、家の鍵とドアを乱暴に開けると、私を部屋の中に強引に引き摺り込んだ。



「きゃあ‼︎」



ダンッ‼︎と、背中を壁に強く押し付けられ、短い悲鳴を上げる。


両手首は顔の横で拘束され、皐月と壁に挟まれて身動きが出来ない。


皐月の鋭い眼光と息遣いを至近距離に感じて、ドクンと心臓が跳ね上がった。



「お前、ふざけんなよ」



微かに震える皐月の声。


皐月はほんの一瞬目を閉じて息をヒュッと吸うと、すぐにまた私を見据えた。



怒鳴られる……っ‼︎



咄嗟に首を竦めながら目をぎゅっと瞑った。





だけど、私の想像とは天と地ほど違って、ふわっと壊れ物を触るように優しく私を抱き締めた。



「馬鹿。どれだけ心配したと思ってる」



緊張の糸が切れ、大きく安堵したような。
涙を含んだような、そんな声だ。




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