好きだと言ってほしいから
 耳元で囁かれた言葉に、私は自分の耳を疑った。すっと欲しくて欲しくてたまらなかったその言葉。私が彼との関係に不安を感じていたその理由。
 胸に回された彼の腕を掴む、私の両手が震えた。滑り出した声もやっぱり震えている。

「だって、そんな……私……てっきり好きだと思ってるのは私だけなんだと……思ってて………」

「どうして!」

 急に体を離されて、肩を掴まれた私は逢坂さんの真正面に体を向けられていた。彼が私の瞳を覗き込む。

「俺は君が好きだった。今でも好きだ。だけど、麻衣は俺と一緒のときはいつも緊張していただろう? だから君はきっと俺と一緒だと気が休まらないんだと思ってた」

「ち、違います! 私は逢坂さんだけがずっとずっと好きで……だ、だから同じ会社に入ったんです。逢坂さんが日栄に入社したから私も……頑張ったんです。もし、入れたら絶対に気持ちを伝えようと思って頑張ったんです」

 私も負けじと声を張り上げた。そんな風に彼に誤解されていたなんて知らなかった。

「じゃあどうして合鍵を受け取ってくれなかったの?」

「えっ?」

 合鍵? 私は首を傾げた。合鍵ってあの可愛いクマのキーホルダーのこと?

「俺、女の子に鍵渡すなんて初めてだったら、かなり緊張してたのに、君はそれを受け取って一回使った後、あっさり俺に突き返した……」

「あ……」

「正直、落ち込んだよ……」
< 64 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop