生徒だけど寮母やります!2




「そもそも小学生だった彼女が弁護士を目指したいと思ったのは、給料目当てだったの。兄弟が多い上にお父様は重い病で、楽しかったけどとても貧乏な生活を送っていたそうよ。だから稼げる仕事に就くために、将来の夢を弁護士にしたのね。


けれど優秀だった彼女は勉強に打ち込んで、いつの間にか心から弁護士を目指すようになったわ。大学を卒業する頃には既に弁護士免許を取得していて、入る事務所も決まっていたの。


そんな時に、年上の恋人との子供を妊娠した事が発覚したのよ。期待を膨らませていた春からの仕事は先延ばしかもしれないけれど、赤ちゃんができたことは嬉しくて仕方なかった。


けれど、妊娠が発覚してすぐ恋人に報告すると、彼は赤ちゃんを堕ろせと言って聞かなかったの。最終的に、彼は自身が既婚者であることを告白したのよ。


これが彼女を人生最大の絶望に突き落としたわ。恋人に奥様がいる事実。その奥様からすれば浮気相手は自分の方ですから。そして何より、彼には自分のお腹に宿った赤ちゃんが障害になってしまうということ。


実は彼は伝統の続く由緒ある家系の、長男だったの。その子が生まれることは許されない。堕ろす以外考えられないと強く頼まれてしまった。


けれどね、それから数日後に、彼は彼女に条件付きでなら出産してもいいと、話を持ちかけてきたの。その条件は『生まれた赤ちゃんを父親側が引き取り、母親は二度と子どもと関わらないこと』。


実は彼の本当の奥様は不妊に悩まされていて、彼らの間には子供がいなかったの。つまり赤ちゃんを、彼女の子どもとしてではなく、彼とその妻の子どもとして育てることを提案してきたのよ。


バカだと思うでしょう?けれどね、彼女は勉強の合間のバイト代も家族の生活費に充てて、国立大学の学費を出すのも借金をして精一杯の、ギリギリの生活を送っていたの。だから自分だけでは赤ちゃんが育つための十分な環境を用意してあげられないと思ったのね。

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